発達心理学・発達科学ってなに?

子どもの発達研究を少しでも,一般の方に知ってもらえるようにブログを書くことにしました。特に,子育てをしている親御さんや学校の先生,子どもの発達を勉強したい学生に向けて書いていこうと思います。できるだけ,難しい言葉は使わないように心がけます。

 

まず,「発達心理学」と「発達科学」について,説明します。

発達心理学ってなにを勉強している分野なのでしょうか。

 

わたしたちは,生まれてから,死ぬまでにいろんな変化をしていきます。だらんとしていた赤ちゃんが,いつのまにか,言葉を話すようになります。おもちゃの取り合いをしていた幼児が,おもちゃを譲ることができるようになります。でも,また財産をめぐってけんかになることもありますが。「発達心理学」とは,"ヒトが生まれてから(あるいは,お母さんのお腹の中にいるときから),死ぬまでの,心や行動の変化を探求する学問"です。特に,年齢から,その変化を考えることが多いです。

 

例えば,言語の発達を考えると,1か月くらいから,「あーうー」などの喃語(なんご)が見られ,8か月くらいには,母語の音に似た,なにかを伝えたそうな声を出します。これは,ジャルゴンと言います。そして,10~12か月くらいに,「ママ」「パパ」などの初語が出てきます。これは,「ママ」という単語ひとつの言葉なので,一語文と呼ばれます。その後,2歳ごろになると,語彙爆発と言って,語彙(ごい,知ってる単語のこと)の数が一気に多くなります。

 

このように,だいたい,子どもはいつから,○○ができるようになる。という研究が発達心理学のテーマになります。子どもを育てたことのある方なら,うちの子は,こんなきれいにいかなかったわ。と思う方もいると思います。その通りで,発達には,個人差があります。例えば,言語に関しては,女の子の方が発達が早いとも言われます。あくまで,多くの子どもたちの平均であることを忘れてはいけません。

(追記 2024/1/23) ○○がどう変化していくか、という生涯を通した発達的変化も重要なテーマです。例えば、なぜワーキングメモリや注意などの認知能力が乳幼児期から上昇し、青年期・成人期初期にピークを迎え、高齢期にかけて下降していくのでしょうか。認知機能は、逆U字の発達的軌跡を描くことが多いです。熟達と未熟という軸だけでなく、どうしてこの発達段階で、このような認知能力の水準であるのかを考えることも重要です。そのヒントが進化発達心理学の考え方です。

 

「発達科学」は,最近よく聞く言葉ですが,発達心理学脳科学が組み合わさったようなものです。例えば,言語が発達するのと同じように,脳はどのように変化するのかを考えます。実は,大人よりも,子どもの方が,脳の神経の数が多いことがわかっています。子どものときに,使う可能性のありそうな神経のつながりをたくさん作って,その後,使わないものが無くなっていくのです。これを,「シナプス(神経と神経がつながるところ)の刈りこみ」や「脳の可塑性(変化する可能性があること)」といいます。

(追記2024/1/23) 最近の研究だと、脳科学だけでなく、腸内細菌や内受容感覚 (内臓感覚などの身体内部の感覚) といった神経指標を含む生理指標を計測する生理・生物学的側面が組み合わさっていると考えた方が良いです。発達を、行動 (発達心理学) と生理反応 (生理学・神経科学) から考えるといった感じですかね。

 

子どもの発達心理学は,大人が子どもをコントロールするためのものではありません。子どもたちが,どのように感じて,考えて,行動しているのかを理解するための学問です。実際の子どもの発達を解明することで,その知識を教育や子育てに応用することができます。しかし,これらの知識は,慎重に扱わなくてはいけません。テレビや本・雑誌を見ていると,間違ったやり方がおすすめされていることがあります。結果的に,子どもたちが悲しい思いをしてしまいます。

 

子どもたちは,未来であり,希望です。研究の成果が,子どもたち,子どもたちの周りの大人のためになるように,研究をしていきたいものです。

 

初学者向けの発達心理学入門書としては,

『問いからはじめる発達心理学坂上・山口・林

が,言葉がやさしいし,内容もしっかりしていておすすめです。

 

発達心理学を勉強している大学生や,卒論のテーマを探している方には,

『他者とかかわる心の発達心理学:子どもの社会性はどのように育つか』清水・林

が,日本でバリバリ研究をしている発達の先生方の研究や研究に至った経緯などが書いてあり,とても参考になります。