愛着・アタッチメントってなに?

研究者や大学院生は,研究室で論文を読み・書きするだけでなく,学会や研究会,シンポジウムなどで発表をしたり,議論したりすることも仕事のうちです。世界中や日本中に研究者がいるので,いろんな場所に集まって会を行います。私は,シンポジウムがあって,北海道に来ていて,札幌すすきののマクドナルドで記事を書いています。

 

さて,今回は,「愛着(アタッチメント)」についてです。発達心理学で使われる「愛着」は,不安な状況などで,安心するために特定の誰か(養育者)を求めること,または,そのような結びつきを言います。赤ちゃんは,お父さん・お母さんから離れないように,追いかけたり,見えなくなったら探したり泣いたりしますよね。

 

お気づきの方もいるかもしれませんが,このブログでは,「養育者」や,「お父さん・お母さん」という表現を使っています。子育ては,「お母さん」・「女性」がしないといけないものではありません。「お父さん」でも良いですし,おじいさん・おばあさんでも良いのです。愛着には,「特定」の養育者が重要であると言われます。実際には,赤ちゃんによって,愛着の対象は,お母さんだったり,お父さんだったり,おじいさん,おばあさんのこともあります。じゃあ,子育ては一人でやるのか?違いますよね。ヒトは,本来一人で子育てをするようには進化してきていません。協力して子育てをする生物なのです。また,どこかでこのことについても書きたいと思います。

 

さて,赤ちゃんは,どうして養育者を求めるようになるのでしょうか?ミルクをもらえるからでしょうか?ぬくもりを感じられるからでしょうか?答えは,ぬくもりです。これは,アメリカの心理学者ハーロウによって,サルの実験で確かめられました。また,ボウルヴィによって,ヒトのアタッチメント理論が提案されました。ボウルヴィは,乳児にとって,養育者は,「安全基地」であると言います。子どもは,探索活動(知らないものことをやってみること)をしていると,安心ゲージが,減ってきて,不安になると,養育者のところに行って,回復して,また探索活動をするのです。

 

乳児と養育者が愛着を形成するためには,どのようなことが必要なのでしょうか。お父さん・お母さんと赤ちゃんのやり取りを見ていると,赤ちゃんの行動が先にあることがわかります。例えば,赤ちゃんが泣いていたら,「どうしたの~,よしよし。」と抱っこしたり,声をかけたりするでしょう。このように,乳児の行動に対して,養育者が反応することによって絆が形成されていくのです。

 

また,愛着には,個人差があることがわかっています。これを調べるテストとして,エインズワースの「ストレンジシチュエーションテスト」があります。詳しくは,説明しませんので,検索してみてください。このテストによると,①回避型,②安定型,③アンビバレント型(不安定型),④無秩序型の4つに分かれます。

 

①回避型は,養育者と離れるときに,困惑せず(泣きわめく),再開時にも,喜ぶ様子が見えないタイプです。日常的に,養育者が乳児のサインに対して,あまり反応できていないことが考えられます。

 

②安定型は,離れるときは,戸惑うが,再開時には,すぐに落ち着き,積極的に身体接触を求めるタイプです。日常的に,養育者が,乳児のサインに対して,応答性が高いと考えられます。

 

アンビバレント型は,分離時には,取り見だし(泣きわめき),再開時にも,なかなか落ち着かずに,起こりながら身体接触を求めるタイプです。日常的に,養育者が,乳児のサインに対して,反応していますが,養育者の気分によることが多いと考えられます。

 

④無秩序型は,分離時や再開時にも,落ち着かない様子があり,顔を背けながら,接触を求めたり,おびえていたりと,行動が一貫しないタイプです。虐待などの可能性が考えられます。

 

さて,安定型がよさそうですが,そうとも限りません。これらの分類には,文化差があることが言われています。日本人の乳児には,不安定型が多いという報告もあります。また,養育者に責任があるということも言えません。例えば,赤ちゃんには,①やさしいタイプ,②むずかしいタイプ,③ゆっくりタイプ,という気質(生まれ持った性格)があると言われています。①やさしい赤ちゃんには,反応しやすいですが,②むずかしいあかちゃんは,いつもぐずっていて,毎回適切に反応するのは,難しいかもしれません。このように,養育者だけでもなく,赤ちゃんだけでもなく,赤ちゃんと養育者との相互作用が大切なのです。

 

最後に,目の前に養育者がいなくても,探索と安心の回復をできるようになります。この愛着のモデルを内的作業モデルといい,養育者との愛着の関係を,他者との人間関係にも適用すると言われています。