心の理論ってなに?

生活リズムを一定にすることは健康に良いと思います。わたしは,毎日同じリズムで生活していると,気が狂いそうになってきて,朝起きれなくなったり,一日何もやる気が起きなくなってしまいます。そのため,定期的に,生活リズムを変えています。最近は,午後と夜に研究をして,午前寝ればどうかと思い,実験中です。ただ,授業があるときには,そうはいきませんが。。。

 

今年(2019)のM-1グランプリは,かなり見ごたえがありましたね。私は,「となりのトトロ」をすでに見てしまっていますし,発達心理学の教科書には,しばしば「トトロ」がでてきます。個人的に,(お笑い)芸人と研究者は似ているように思っています。認められる結果を出し続けないと,業界でも社会でも生きていけない(職を得たり,テレビに出たり)。最初の(認められる)結果を出すまでは,アルバイトや借金生活をしないといけないこともあります。アスリートも同じですかね。羽生君や,大谷君,瀬戸君など,同級生にも刺激をもらっています。わたしもがんばらないといけないですね。

 

さて,今回は,「心の理論」について話します。これは,私たち人間のコミュニケーションにとって,とても重要な概念であり,発達心理学だけでなく,哲学やAIなどでも議論されています。「心の理論」とは,他者の行動から,その人の考えていること(知っていること,好きなこと,信じていること,したいことなど)を推測して,その後の行動を予測する理論を言います。要するに,相手が何を考えているかを予測することです。例えば,授業中に,友人が,もじもじして,出口をちらちら見ていたら,「あー,トイレに行きたいんだな」と思うでしょう。おもらいをしてしまった子どもが,しょぼんとしていたら,「あー,おちこんでいるな。」と思うでしょう。

 

それでは,心の理論は,何歳ごろから獲得されるのでしょうか?つまり,子どもは,いつから,他者の心を推測することができるのでしょうか?心の理論を測るテストには,誤信念課題があります。これは,他者の誤った信念(かんちがい)を子どもが理解できるかを測っています。実験の結果,4歳半ごろから他者の誤信念を理解でき,3歳時には難しいことがわかっています。また,誤信念を推測するには,他者と私は,異なった考えを持っているということを子どもが理解していることも重要です。

 

誤信念課題の例には,「サリーとアン課題」や「スマーティ課題」があります。ここでは,「サリーとアン課題」を説明します。詳しくは,検索していただくと,すぐにヒットします。簡単に言うと,①サリー(女の子),アン(女の子),かご,はこ,ボールがあります。②サリーは,ボールをかごに入れて,どこかに行ってしまいます。③その間に,アンは,ボールをかごから,はこに移します。このことを,サリーは知りません。④サリーが戻ってきました。サリーは,ボールで遊ぶために,どこを探すでしょうか?というものです。

 

サリーは,ボールが移動したことを知らないので,かごを探すはずです。しかし,3歳児は,「かご」ではなく,「はこ」と答えてしまいます。3歳では,サリーの誤信念(現実には,ボールは「はこ」に入っているが,「かご」に入っているという勘違い)を推測できずに,子ども自身が見て知っていることを答えてしまうのです。ピアジェの「自己中心性」を思いだしてください。他者も自分と同じように見ていて,考えていると推測するのです。

 

心の理論の獲得には,文化差があることがわかっています。日本の子どもは,西洋の子どもに比べて,誤信念課題に正答できる年齢が遅いことがわかっています。これは,何を意味しているのでしょうか?日本の子どもは,西洋よりも劣っていることを意味しているわけではありません。日本の子どもは,西洋と異なった心の理論の獲得プロセスがあるかもしれないし,この課題が向いていないのかもしれません。ある研究では,日本の子どもは,言語的な質問の方法が苦手であるだけで,言語的でない方法では,西洋と同等の成績になることがわかっています。なお,西洋と言いましたが,国によって違うらしく,イギリス,アメリカ,韓国は中間ぐらいで,カナダやオーストラリアは早く,オーストリアや日本は遅いようです。

 

「○○君の気持ちも考えなさい」,「相手が嫌がることはしない」,「相手の気持ちを考えなさい」と私たちは,当たり前に子どもに言うわけですが,少なくとも幼児の段階では,難しい場合があります。4歳半ごろからわかると言っても,完璧ではないですし,日常はもっと複雑でしょう。例えば,みなさんは,喧嘩した時など,とても感情的になっているときに,相手の気持ちをしっかりと考えられますか?自分のことでいっぱいいっぱいの時に,相手のことを考える余裕はありますか?大人だって難しい状況もありますよね。まず落ち着いて冷静になることが大切です。その後,もし,子どもが自分で整理できないのであれば,考えるサポートをしてあげてください。「○○君は,どうして,△△したのかな?」,「あなたは,どういうときに,△△してしまうかな?」,「○○君も,あなたと同じ気持ちだったんじゃないかな」。。。大人とのやりとりの経験が,自分一人でできるようになるためには必要です。

 

心の理論に関しては,さらに議論が進んでいます。例えば,誤信念課題は,4歳半ごろからと言われていますが,これは幼児に言語で答えてもらう条件です。実は,言葉ではなく,視線を測る条件では,3歳児や15か月(1歳3か月)でも正答できることがわかっています。これはとても不思議なことで,すごく単純に言うと,意識的にわかるのは,4歳ごろですが,無意識的には,赤ちゃんも誤信念を理解しているのです。ここでは,これ以上の議論はしませんが,「幼児(報告)ではできないけど,乳児(視線)ではできる」は,最近の発達心理学で,盛り上がっていたテーマです。

 

さらに,心の理論には,「二次の心の理論」というものもあります。今まで述べてきた心の理論とは,「(一次の)心の理論」で,「一次の」が隠れていました。これは,「A君は○○だと思っている」という,「」が一つの推論でした。「二次の」心の理論は,「A君は「B君が○○だと思っている」と思っている」という,「」が二つの推論のことを言います。例えば,「コナン君は,「ラン姉ちゃんは,コナン君がシンイチではないと思っている」と思っている」ことがわかるから,ばれそうになるとハラハラするのです。あるいは,恋愛の三角関係を理解や,推理小説を楽しむことができます。人間の場合は,3次が限度だと言われています。二次の心の理論は,6,7歳ごろから9歳ごろに獲得していきますし,ヒトだけができることの一つです。例えば,ほしくないプレゼントをおじいちゃんにもらったとき,子どもは,「おじいちゃんは,「ぼく/わたしがプレゼントをもらってうれしい」と思っている」ことを理解して,気を遣うことができます。

 

一次の心の理論は,幼児期(保育園,幼稚園),二次の心の理論は,児童期(小学校)での発達する能力と言えます。自力で獲得するのではなく,大人や周りの子どもとの関係の中で育まれるものです。お笑いやテレビドラマは,芸人や役者が,何を考えているかを推測できるからこそ楽しめるのです。さらに,その予想を裏切られるから,さらにおもしろいのです。

 

私たち大人は,子どもは○○ができないから,未熟だと言いますし,できるようにならないといけないからと怒り,しつけないといけないんだと言います。しかし,それができない理由を考えることはあまりしません。できなかったのか(年齢や能力),しなかったのか(勘違いや反抗)。それによって,対応の方法は変わります。さらに,大人自身もできないときがあることを忘れています。発達を勉強することは,これらのことに気づかせてくれます。私たち大人は,大人に対しては,心の理論をうまく使えているかもしれませんが,子どもに対しても,うまく使えているとは限らないのです。

 

発達を勉強している方には,

『心の理論 第2世代の研究へ』子安・郷式

が,最新の研究を知ることができます。

 

これも,初学者には難しいと思いますが,

『社会脳の発達』千住淳

が,心の理論,自閉症,視線などに興味がある方にはおすすめです。

発達で大学院に行きたい方には,必読書です。