実行機能ってなに?

もうすぐ,2020年が始まりますね。大学の4年や大学院の修士課程2年の人たちは,卒業論文修士論文の執筆で大変そうです。でも,そんなことを言ったら,大学受験生も追い込みをかけているし,年末年始も休むことなく働いている人もいますね。私も実家に帰ってきましたが,幸いなことに両親はまだ元気で,年末年始もお仕事をしています。今私にできることは,勉強すること,研究することです。そして,共有することです。「いい年して,なにをやっているんだ?」とは言わず,「おまえの好きなように生きろ」と言ってくれる両親に感謝しています。いや,感謝だけじゃなくて,しっかりと結果を出さないといけないですね。

 

さて,今回は,「実行機能」について説明します。これは,前回の「心の理論」と同様に,発達心理学では,ビックテーマの一つです。そういえば,「じっこうきのう」みたいに,学問の専門用語ってなんか,難しそう感がありますよね。勉強しようと思っても,知らない言葉がたくさん出てきて,やる気がなくなることはよくあります。研究者がいじわるで,難しい言葉を作って使っているわけではないです。複雑なことを考える際に,起きている現象を整理するために,それぞれに名前をつけているのです。ただ,「難しいことを考えているよ」というプライドもありそうですね。あとは,英語をそのまま日本語に翻訳すると,漢字で名詞句を作るので,難しくなりがちです。

 

脱線しましたが,「実行機能」とは,目標を達成するために,行動をコントロールする能力のことです。例えば,料理を考えてみましょう。カレーを作るという目標のためには,いろんなことをしないといけません。○○は,10グラム,△△は,大さじ2杯,玉ねぎは,□□分炒める。など,レシピを覚えていないといけませんし,それぞれの具材を別々に処理しないといけません。火加減にも気を使います。効率の良い方は,料理をしながら片づけもしてしまいます。このように,カレーを作るというだけでも,私たちはたくさんのことを行っています。目標を「実行」するための能力が実行機能です。

 

実行機能として,3要素が重要であると言われています。「抑制」「切り替え」「更新(ワーキングメモリ)」の3つです。それぞれについて,少しずつ説明します。「抑制」とは,余計な行動をしないようにすることです。つまり,がまんすることです。例えば,カレーを作っている途中に,「スラムダンク」を読みたくなって,読み始めてしまったら,玉ねぎは真っ黒になってしまいます。何かに集中するためには,他のことをがまんしたり,それを考えないようにしないといけません。ちなみ私は,仙道が好きです。

 

「切り替え」とは,行動を切り替えることです。例えば,玉ねぎを切って,炒めて,その次に,肉を炒めて,最後に野菜を炒める(これで合ってるのかな?)など,次の段取りに移る必要があります。切り替えができないと,次の行程に移れません。さらに,料理中に,電話が来たとき,相手からデートの誘いがあったのに,カレーのレシピの話を続けたら,大切な機会を失ってしまいます。カレーから離れて,デートの話をしないといけませんね。あとは,めっちゃ怒っていても,電話に出るときには切り替えて,電話が終わったあとに,まためっちゃ怒られることはよくあります。

 

「更新(ワーキングメモリ)」とは,覚えていることが変わってもそれを維持することです。例えば,子どもにカレーを作ってあげているときに,「ソーセージいれて」「にんじん抜いて」「じゃがいも冷まして」などの要望があった際に,カレー作りの段取りを覚えていながら,上書きすることです。そのうえで,にんじんは抜きません。

 

これらが,発達になぜ重要かというと,これらの能力は,幼児期に大きく変化し,生涯を通しても変化し続けるからです。そして,日常生活でとても重要な機能であるからです。例えば,小学校からの授業を考えてみてください。先生の話を聞いて,ノートを書くためには,先生の声だけに集中しないといけません。消しゴムと鉛筆を戦わせて,新技を編み出している場合ではないのです。学校の勉強についていけないのは,内容が難しいだけでなく,勉強する行動を維持するのが難しいからでもあります。

 

ここで考えてほしいのは,「やる気」がないから勉強ができないわけでは,必ずしもないということです。教室の中で,目に見える範囲に授業に関係のないものがあると,抑制ができず,それで遊んでしまったり,それに気を取られてしまい,空想の世界に行ってしまったりすることがあります。あるいは,遊んでいて,いきなり勉強に切り替えるのは難しいです。その活動に必要がないものはしまうようにする,時間の段取りは見えるようにして,しっかりと伝えることは,子どもが勉強に集中するためには必要なことです。つまり,環境を整備するためには,大人側の実行機能も大事であるということです。

 

私は,抑制と切り替えが今でもとても苦手です。失恋したらけっこう引きずります。大人でも完璧に,自分の行動をコントロールすることができるわけではないですよね。人生には,気持ちや意志の力だけでは,難しいことも多くあります。精神論に陥りすぎることなく,自分だけでは難しい場合は,環境を工夫することも必要です。

 

おすすめの本は,

『自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学』森口佑介

です。新書で一般の人向けに書かれています。