赤ちゃんって善悪判断できるの?他者を助けようとするの?

私は,発達科学・発達心理学を専門としていると言いましたが,具体的には,子どもの「心」と「行動」と「脳」の関係を研究しています。そして,それぞれの発達とその関係の発達を研究しています。さらに,これらを「意識」という現象・機能で説明しようとしています。まだまだ,研究途中ですので,詳しくは書きません。

 

このブログのタイトルは,「子どもが意識している世界」です。なぜわざわざ,このように言うかというと,子どもと大人では,感じている世界も考えていることも異なっているからです。どっちが本物でしょうか?子どもはいつか必ず,大人になる。社会は大人が回している。子どもは未熟な存在だ。だから,大人の世界と考えが本物だ!本当にそうでしょうか?私はブログを通して,この疑問をみなさんと考えたいと思っています。

 

そして,もう一つ。大人はみんな同じ世界と考えを持っていますか?20代と50代の生き方は同じですか?大人と子どもで分けてしまいがちですが,大人になっても発達し続けます。これが,「生涯発達心理学」です。もちろん,個人個人でも違いますよね。

 

子どもは,大人になる準備状態なだけではありません。進化を考えると,遺伝子を伝えることが第一目標になります。生殖ができる大人になるまで生き残らないといけませんね。子どもは,子ども期を生き残るためにも進化をしてきました。こういう考え方を「進化発達心理学」と言います。神経系(脳など)との関係を考えるのが,「神経発達心理学」です。〇〇学->△△心理学->◇◇発達心理学ってどんどん名前が長くなっていきますね。臨床と発達を組み合わせた「臨床発達心理学」もあります。生涯進化神経臨床発達心理学にもなるかもしれませんね。

 

余談はここまでにして,今回は,「道徳性の発達」について書きます。私は,大学の学部時代は,子どもの道徳性の発達を勉強していました。卒業論文は,道徳性の中でも,子どものうそを研究しました。余談が長すぎたので,途中でやめるかもしれません。まずは,子どもの「善悪判断」について考えましょう。善悪判断とは,良いと思うか悪いと思うかどっちやねん?ということです。さて,ピア・・・。と言えば,そう!ピアジェ先生ですね。子どもの道徳性研究もピアジェから始まっています。

 

次の2つの子どものどちらが,より悪いと思いますか(怒りますか)?①「お手伝いをしていて,テーブルにぶつかって,ガラスのコップを7個落として割ってしまった子ども」,②「ご飯の時にふざけていてテーブルにぶつかって,ガラスのコップを2つ落として割ってしまった子ども」きっと,「わざと」かどうか,これを「意図」といいますが,で判断するのではないでしょうか?つまり,②の方が悪い。ところがどっこい,6歳以前の子どもは,①の方が悪いと答えるのです。ピアジェは,このことから,この年齢の子どもは,意図ではなく,結果で善悪を判断すると考えました。ピアジェ先生,そんな単純じゃないでしょ!と突っ込める方は,ちゃんと私のブログを読んでくれているか,よく勉強されている方でしょうか。子どもを叱るときは,この点を考慮してあげてください。「わざとでしょ!」と責められても,理解していないかもしれませんから。

 

赤ちゃんは,良いやつと悪いやつを区別できて,良いやつを好むという研究が,ハムリンという研究者から出ました。これはとてもインパクトがありましたね。哲学的にも,「性善説(人は生まれながらに善人である)」と「性悪説(人は生まれながらに悪人である)」の議論に対して,性善説を支持するような研究です。本当は,生まれながらにってどういうこと?具体的にいつ?赤ちゃんは社会的な生き物ですから,生まれてから環境の影響を受けています。ここら辺は,ややこしいので今は置いておきます。

 

この研究には,顔の書いてある〇と△と□と坂道が出てきます。①坂を上っている〇を□がいじわるをしてじゃまする,②坂を上っている〇を△が親切に後ろから押して手伝う,という二つの場面を6か月児に見てもらいます。その後,△と□を見せて,どっちに手を伸ばすかを調べました。その結果,6か月児は手伝っていた△を選んだというのです。

Hamlin, J. K.,  Wynn, K., & Bloom, P. (2007). Social evaluation by preverbal infants. Nature, 450, 557-559.

 

さらに,ハムリンらの他の研究では,早くて3か月ごろから,①じゃま,②手伝う,③何もしない,を組み合わせたときに,①じゃまと②手伝うでは②手伝うを好み,②手伝うと③何もしないは変わらない,①じゃまと③何もしないは③を好む,ことが報告されており,良いやつが好きだというより,悪いやつに敏感なのかもしれません。これらから,1歳にならない赤ちゃんでも,良いことと悪いことを区別できて,その行いした人・ものに反応できることがわかっています。

Hamlin, J. K., Wynn, K., & Bloom, P. (2010). Three-month-olds show a negativity bias in their social evaluations. Developmental Science, 13, 923-929.

 

ハムリンらの研究は,赤ちゃんの善悪の認識についてでした。次に,トマセロらの赤ちゃんが行う助ける行動(援助行動)についての研究を紹介します。トマセロは,赤ちゃんの向社会的行動(他者のためになる行動です)の研究に関して,怪物って感じです(私のイメージです)。赤ちゃんの前で,物を落としてしまったけど,手がふさがっていて取れないときに,赤ちゃんは取ってくれるでしょうか?という研究です。この研究から,14か月と18か月の赤ちゃんは,すぐに拾ってくれました。さらに,12か月児では,気づいている人よりも,気づいていない人に,多く指差しで知らせることがわかっています。これらのことから,赤ちゃんのころから,人を助けたいと思って行動できることがわかっています。

Liszkowski, U., Carpenter, M., & Tomasello, M. (2008). Twelve-month-olds communicate helpfully and appropriately for knowledgeable and ignorant partbers. Cognition, 108, 732-739.

Warneken, F., Hare, B., Melis, A. P.,  Hanus, D., & Tomaswllo. M. (2007). Spontaneous altruism by chimpanzees and young children. PLoS Biology, 5, 1414-1420.

Warneken, F., & Tomaswllo. M. (2006). Altruistic helping in human infants and young chimpanzees, Science, 311, 1301-1303.

 

今回はここまでにします。赤ちゃんの研究は,哲学的な問いを考える上でも,重要であり,注目されています。ただ,研究をする上では,「ヒトは生まれながらに善である」と思いたいという,私たちの願望が入ってきてしまわないようにしないといけません。また,赤ちゃん研究の再現性の問題もあります。これは,「赤ちゃんは,〇〇歳から△△がわかる」という研究が,同じようにやってみたら,同じ結果にならなかったら,え?どういうこと?ってなりますよね。科学は,再現できなくてはいけません。「赤ちゃんは,こんなに早くから〇〇できるんやで!」の早さをめぐる争いが多かった印象があります。確かにびっくりだし,おもしろいのですが,私は,どのように発達していくか,なぜそのように発達するのかを考える研究がしたいと思っています。

 

おすすめの本は,

『子どもの社会的な心の発達』林創 金子書房

『子どもは善悪をどのように理解するのか?』長谷川真里 ちとせプレス

です。一般向けに書かれており,とても読みやすいです。

学部と卒論で,大変お世話になった先生方です。

 

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

子どもの社会的な心の発達 コミュニケーションのめばえと深まり [ 林創 ]
価格:2420円(税込、送料無料) (2020/1/26時点)

楽天で購入