卒論執筆について

先日,学振という,来年度から2~3年ほど生活費と研究費をもらえる研究員の審査結果が出ました。私は,学振DC1に応募していました。DC1は,博士課程3年間の研究員制度で,修士2年の5月に申請書を提出して,9-10月に結果がでます。私の研究計画は,残念ながら不採用となりました。研究者は,研究費獲得のために申請書を書き,研究をして,論文を書きます。しかし,申請書のためには,業績 (論文) が必要です。つまり,ループになっています。査読つき国際誌1本目の論文,研究者誰もが通過するものですが,大学院生にとっては,一つの乗り越えるべき大きな壁でしょう。

 

今回からは,卒論~プレプリントまでの流れを書きます。まず,①卒論執筆について書きます。次に,②国際誌への投稿と査読結果 (拒否) について書きます。次に,③査読結果 (要修正) と修正,再投稿について書きます。最後に,④プレプリントの公開について書きます。

 

まずは,①卒論執筆についてです。私は,心理学部や学科ではなく,国際教養学の発達心理学ゼミで卒論を書きました。3年前期の段階では,意思決定論で1万字ゼミレポートを書いていて,意思決定のモデルなどをやりたいと思っていました。思い返すと,当時は,認知心理学を専門にしたいと思っていました。一年留学をして,3年後期からゼミに復帰してからは,せっかく発達心理学ゼミだし,道徳性発達の先生だから,子どもの道徳性の発達で卒論書こうかなと決めました。ピアジェやコールバーグの認知的アプローチやウィゴツキーやチュリエルなどの文化・社会的アプローチなどをまとめていました。大学院進学を決めていたので,発達心理学を中心に,心理学の勉強を少しずつ始めていきました。道徳性の発達を調べていると,子どもは○○をどのくらい悪いと判断するのかといった「理解」研究と子どもは○○の状況でどのように振舞うのかといった「行動」研究があることがわかります。

 

道徳性の発達に関係する論文や日本語の本は,手に入るものは一通り調べました。当該分野の勉強はいくらでもできますが,「研究テーマ」を決めることはとても難しいです。勉強していて損はないと思って,発達心理学のビックトピックである「心の理論」と「実行機能」も勉強していました。研究テーマを考えている中で一冊おもしろい本に出合います。神戸大の林先生の『子どもの社会的な心の発達:コミュニケーションのめばえと深まり』1です。その中で,「子どもの嘘の発達」について書かれていました。すごくおもしろかったです。さらに,心の理論と実行機能とも重要な関係があると。自分の子どもの時の経験にもリンクしている。同じ時期に,某学会で,すてきな方だなあって思った人が,子どもの嘘に関する研究を発表していました。決断の時でしたね。そんなことがあって,「子どもの嘘の発達」を卒論テーマに決めました。もちろん,指導教員やゼミ生には,林先生の本のことしか話していません。

 

子どもの嘘に関しては,トロント大学のLee先生がたくさん出しています。大学院受験時の研究室訪問の際に知ったのですが,現在の指導教員とLee先生は知り合いだったので,少し運命を感じました (笑)。3年後期は,子どもの道徳性・嘘研究調べ,心理学の勉強,あとは療育施設で発達支援サポートのアルバイトをしていました。月・火・水は,勉強と研究,木・金・(土)・日は,アルバイト (7時間~8時間) と空き時間に勉強をしていました。

 

4年生 (5年目) の4~8月は,アルバイトと大学院受験準備を優先していました。京大の出願書類には,研究報告書があります。A4で5ページ,卒論の進捗状況を書きます。ここで,卒論の実験デザインを練りました。研究者を目指すのなら,卒論を1本目のジャーナル論文にできるレベルで書かないといけない。相関では弱い。実験を考えなさい。要因計画を考えなさい。大学院生受験するなら,テーマを与えられたらすぐに研究計画を考えられるようにならないといけない。最初は,嘘課題と心の理論課題,実行機能課題の成績の相関を見ようとしていました。なにがだめなのか?課題をやってるから実験じゃないのか?といろいろ考えていました。やっと,大学院受験書類を提出する直前に,言葉の意味がわかりました。データを取って事後的にそれらの関係を見る相関研究ではなくて,仮説をもとに,要因計画を考え,こちらで条件設定をする実験研究をした方が良いということだったんだと。

 

こういう研究あるよ。と2つ日本語の紀要論文でしたが,紹介してくれました。書類提出1週間前です。私は,「敵と仲間が同時に存在している際に,子どもは敵を欺くことができるか」についての嘘課題に子どもは何歳からできるようになるかを調べようと思っていました。林先生の研究(2)から,6歳では難しいことがわかっています。じゃあ,年齢幅を広げて,①5-6歳,②7-8歳,③成人,で比較しよう。それだけでは弱いか。。。どうしたら。。。と悩んでいるところに,上記2つの研究がヒントになりました。幼児・児童では,他者利益よりも自己利益のための嘘課題で正答率が高いという研究(3)と幼児では,年齢が上がるにつれて,答えない・拒否が減り,嘘をつくようになるという研究(4)です。そうか,条件として,自己利益か他者利益かで分ければいいし,欺き方を分類できる。これに,二次の心の理論との関係を見たらおもしろいし,新しい研究になる!とギリギリで先生に伝え,いいね!となりました。

 

4年前期は,学生が就活のため,ゼミはあり〇〇〇。メールや個別相談をしながら,研究を進めました。院試が終わった9月末に,急いで嘘課題を作りました。メルカリでパペットを3種類買って,大学の空き教室で,後輩に動画を撮ってもらい,動画編集ソフトで,修正して声を入れました。その後,二次の心の理論課題を作りました。地元の学童保育と保育園にアポ取りして,保育園は直前過ぎて断られ (ハイキングがありました),学童のみでデータをとれることになりました。ですので,①幼児データはなくなりました。10月は,学童保育に通い,一緒におやつを食べて,宿題を見てあげて,ドッチボールをしていました。空き時間に1日4人ずつくらい,2つの学童に通いながら,10日くらいかけて,小学生1,2年生34名のデータを取りました。ついでに,将棋やりたい子がいたので,将棋のやり方を教えていました。成人のデータは,10月後半~11月前半で,大学内をパペット持ちながら,暇そうな大学生に声をかけてやってもらったり,知り合いの伝手で集めたりしました。大学生は37名データを取りました。

 

卒論は,イントロと方法,結果のフォーマットは,大学院受験用の研究計画・報告書の文章を軸に10月中に書きました。結果とアブストは11月中に書きました。これからは,効果量と95%信頼区間も必要だと本や学会で聞いたので,それらを調べながら計算して論文に書きました。検定力がわからなくて,卒論には書けませんでした。12月中に考察を書き,ゼミ生どうしで,誤字脱字,文献の書き方を確認し読み合いました。クリスマスぐらいに,指導教員にチェックしてもらい,1月の頭に,大学に提出しました。ゼミ生で一緒に提出しようってなり,なぜか,1日目にギリギリ滑りこみで提出しました。地味に,あの黒い表裏紙に挟んで,シール貼って,卒論完成させるのが時間かかります。ひもの通し方もよくわからないです。卒論を提出する際には,余裕持ちましょう。あと,プリンターは壊れます。パソコンフリーズして,強制終了して,最新データ消えます。気をつけましょう。

 

卒論執筆に関して,いきなり書き始めるのではなく,しっかりと骨組みを考えましょう。つまり,イントロも①大きな問題や社会問題,一般的な内容,②卒論のテーマ,③先行研究,④先行研究の問題点,⑤本研究の目的,⑥仮説,など,考察も,①結果の要約,②仮説の支持不支持,③それぞれの仮説の考察 (先行研究との一致,なぜこの結果になったのか,など),④全体の考察,⑤本研究の限界と展望 (批判点や見なかった点,など),⑥サマリー,などです。APAスタイルや,日本心理学会のものに従って書くのが多いと思います。指導教員に確認しましょう。心理学の論文には,書き方のルールがあります。特に,統計値や引用に関して。倫理審査あるなら通しましょう!最近は,倫理通ってない研究は,ジャーナルに受理されません。

 

私の卒論に関しては,プレプリントとして公開しました (https://psyarxiv.com/85b36/)。7,8歳児は,敵と仲間が同時に存在する葛藤場面では,他者利益のためには,チャンスレベル,自己利益のためには,チャンスレベルを超えて敵を欺くことができました。また,これらの欺きの正答率と二次の心の理論には関係は見られませんでした。しかし,他者利益課題の際に,二次の心の理論課題に正答した子どもは,嘘をつくのではなく,教えなかったり,教えることを拒否したいする方法を選びました。

 

卒論執筆の参考にした本

『心理学論文の書き方―おいしい論文のレシピ』|感想・レビュー - 読書メーター

『心理学論文道場―基礎から始める英語論文執筆』|感想・レビュー - 読書メーター

『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』|感想・レビュー - 読書メーター

『APA論文作成マニュアル 第2版』|感想・レビュー - 読書メーター

-> 日本語版だと,第6版,英語版だと,第7版が最新です。絶対に最新を参考にしましょう。

執筆・投稿の手びき | 日本心理学会

 

研究計画の参考にした本

『他者とかかわる心の発達心理学: 子どもの社会性はどのように育つか』|感想・レビュー - 読書メーター

『なるほど! 心理学研究法』|感想・レビュー - 読書メーター

『心理学マニュアル 要因計画法』|感想・レビュー - 読書メーター

 

統計分析の参考にした本

『伝えるための心理統計: 効果量・信頼区間・検定力』|感想・レビュー - 読書メーター

『心理統計学の基礎―統合的理解のために』|感想・レビュー - 読書メーター

『続・心理統計学の基礎--統合的理解を広げ深める』|感想・レビュー - 読書メーター

『教育・心理・言語系研究のためのデータ分析 研究の幅を広げる統計手法』|感想・レビュー - 読書メーター

『Rによる心理データ解析』|感想・レビュー - 読書メーター

 

文献

(1) 林創 (2016). 子どもの社会的な心の発達―コミュニケ-ションのめばえと深まり. 金子書房

『子どもの社会的な心の発達: コミュニケーションのめばえと深まり』|感想・レビュー - 読書メーター

(2) Hayashi, H. (2017). Young children’s difficulty with deception in a conflict situation. International Journal of Behavioral Development, 41, 175-184.

(3) 南島彩乃・藤野博・松井智子・東條吉邦・計野浩一郎 (2016). 定   型発達児とASD児における欺きと心の理論―自分のための嘘と他人のための嘘―. 東京学芸大学紀要:総合教育科学系Ⅱ, 67, 235-242.

(4) Kikuno, H., & Kikuno, Y. (2015). Can Young Children Help Others by Deception? Active and Passive Deception. 環境と経営, 21, 119-125.

 

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