エリクソンの発達段階説ってなに?後半

発達心理学を研究・勉強していますと,自己紹介の時には言いますが,実際の日々やっていることは,子どもには関係ないことが多いです。例えば,今までに,子どもでの研究がない分野だと,まず,大人での研究を調べることが多かったり,実験のためにパソコンのプログラミングを勉強したり,実験の結果を考えるために,統計(数学で計算すること)を勉強したり,毎週の発表の準備をしたりしています。そのため,このブログで書いているような,基礎的で,どの教科書にも書いてあるようなことは,おろそかになってしまいます。忘れないようにするためにも,ブログで復習しようと思っています。20年後くらいには,私の研究が教科書に載るようになるでしょう。

 

さて,今回は,エリクソンの発達段階説の後半です。エリクソンの理論には,2つの概念(考えのようなもの)があります。1つは,「生涯発達」です。発達・発達心理学って,何を考える学問でしたっけ?「生まれてから死ぬまでの変化」ですね。一般的に,発達=子どもと考えられていますが,成人や高齢者の研究も発達心理学に含まれます。さらに,発達とは,「時間的な変化」のことを言い,成長(できるようになること)と衰退(できなくなること)の両方を含みます。発達を考える時には,生涯にわたる他の発達段階との関係を考える必要があるということです。

 

2つ目は,人間を,「生物-心理-社会的な存在」として考えます。私たちは,「生物のヒト」であり(例えば,生物学的な女性),「こころを持った個人」であり(例えば,〇〇というわたし),「社会的な役割」がある(例えば,お母さんであり,妻)ということです。どれか一つから考えるのではなく,これらの3つの相互作用を考えることが大切なのです。

 

さて,青年期の課題・危機は,「同一性と役割混乱」です。エリクソンは,特に,この時期の発達段階を重視しました。同一性とは,アイデンティティのことです。つまり,「わたしとは何者か」を確立することがこの時期の課題です。思春期や反抗期の時期です。今までは,親や先生など,大人に言われたことをやってきていれば良かった「わたし」だったわけですが,自分独自の価値観を形成するためにもがく段階になっていることを意味しています。2歳児前後を「第一次反抗期」といい,思春期を「第二次反抗期」とも言いますが,これらの反抗は,とても意味のあることなのです。必死に「わたし」を見つけようとしています。この段階では,役割混乱(自分がやりたいことを見つけられないこと)を克服し,同一性を獲得していくことが大切です。

 

その後の発達段階では,成人前期では,「親密性と孤独」です。結婚や子育て,家族を作ることがこの段階になります。成人後期では,「生殖性と停滞」です。子どもが大きくなってくるのと同時に,自分の衰えを感じてきます。最後に,高齢期は,「自我の統合と絶望」です。死を意識し始め,自分の人生を一本の道のようにまとめていく段階です。

 

それぞれの発達段階で,何冊も本が書けるように,たくさんの研究と研究者がいます。わたしは特に,乳児・幼児・児童が専門ですので,その分野の研究をブログでは主に紹介していきますが,青年や成人,高齢者のことを知りたい方は,「青年心理学」や「高齢者心理学」,「家族心理学」などの本が参考になるかもしれません。

 

 

 

エリクソンの発達段階説ってなに?前半

今回は,「エリクソン」の発達段階説を説明します。エリクソンの発達段階?って言われても,ピンとこない方が多いと思いますが,「アイデンティティー」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。「わたしって,何者なんだろう?」ということに悩んだ経験があると思います。「わたしとは,○○である」という感覚のことを言います。野沢雅子さんと人造人間17号のものまねをしているコンビではありません。

 

ここで,少し子どもの段階の名称を紹介します。専門家が子どもの年齢を分けて言う場合には,生まれて1か月ごろまでを,「新生児」と言います。1歳~2,3歳ごろまでを,「乳児」と言います。3~6歳ごろまで,保育園児や幼稚園児を,「幼児」または,「未就学児」と言います。小学生を,「児童」と言います。中学生は,「青年(期前期)」,高校生を「青年(期後期)」と言います。大学生は,成人(期前期)だったのですが,青年(期後期)と言われることもあります。どんどん,青年期は延びているようです。

 

エリクソンは,人生を8つの発達段階に分類しました。①乳児期(0~1歳ごろ),②幼児前期(1~3歳ごろ),③幼児後期(3~5歳ごろ),④学童期(6~12歳ごろ),⑤青年期(13~20歳ごろ),⑥成人初期(20代前半~30代ごろ),⑦成人期(30~60代ごろ),⑧高齢期(60代ごろ~)です。のちに,⑨超高齢期も追加されました。エリクソンの理論では,その発達段階ごとに,心理社会的危機(乗り越えるべきもの)を設定しました。

 

①乳児期の危機・葛藤は,「基本的信頼と基本的不信」です。養育者への信頼を得るのと同時に,すべての要求に答えてくれるわけではないという不信を体験していきます。ここでは,課題や危機と言っていますが,基本的信頼と基本的不信の両方のバランスをとっていくことが,発達には重要とされています。どちらかが欠けてもいけないのです。例としては,泣いたらすぐに来てくれる(信頼)けど,トイレについていくことは,拒否される(不信)などがあります。基本的不信を克服することで,両行な,自分と他者との関係性を築いていきます。

 

②幼児前期の危機・葛藤は,「自立性と恥・疑惑」です。自分の力で,できることが増えて,成功すれば,褒められることも増えてきます。自立性とは,自分から,何かをすることができる能力です。しかし,活動する分,失敗も経験し,恥や自分への疑惑(できると思っていたけどできない?)を抱くようになります。恥や疑惑を克服することで,自立性を獲得していきます。

 

③幼児後期の危機・葛藤は,「自主性と罪悪感」です。好奇心を持ち,いろんなことにチャレンジするようになります(自主性)。その一方で,失敗をして,大人に怒られることも増えてきます(罪悪感)。罪悪感を克服することで,チャレンジし続けられる自主性を獲得します。

 

④学童期の危機・葛藤は,「勤勉性と劣等感」です。自分で勉強したり,努力したりすることで,目標を達成しようとする(勤勉性)時期です。と同時に,がんばってもうまくいかなかった経験(劣等感)をしていきます。劣等感を克服することで,勤勉性を維持することができます。

 

今回は,ここまでにします。少ない文字数でまとめるのは,難しいですね。エリクソンの理論では,各段階の課題を克服できない場合は,次の段階に進めないとされています。厳密にいうと,さらに細かい分類があるのですが。

 

甘えんぼになるから,赤ちゃんの時には,突き放すことが必要だという人がいますが,まったく逆の影響が出てしまう可能性があります。基本的不信を克服できない場合,それを大人になっても引きずってしまうということもあります。もちろん,その後の愛情で克服できるとも言われています。乳児期には(もちろん,それ以降も),たっぷりの信頼・愛情を注いでも良いのです。「あなたをなにがあっても愛している」という信頼は大切です。しかし,だからといって,忙しくて疲れている,お母さん・お父さんにとって,毎回100%の対応をすることは難しいでしょう。「ほどほど」で良いのです。できる限りの愛情で十分であることが,発達心理学では言われています。

 

自立性と恥・疑惑では,トイレトレーニングなどがあげられます。自分でトイレができるようになる過程では,おもらしをしてしまうこともあります。自分でやりたいという気持ちが強くなってくると,「いやいや期」,「第一次反抗期」,「魔の2歳」などがあります。しかし,これは,むしろ子どもの自己(わたしという感覚)が発達している証なのです。やると言って,泣き,できなくて,泣き,親御さんは大変ですが,子どもの成長を感じられる時期でもあります。

 

上記で書いてきた,「」の左側のもの(基本的信頼など)を獲得できるように,そして,右側のもの(基本的不信など)を克服できるように,親や先生などの大人は,サポートしていく必要がありますし,発達段階の理解は,サポートする際のヒントになります。失敗したとき,子どもはたちは,自分の失敗に気付いていることが多いです。恥ずかしいな,怒られるの嫌だなと,感じているのです。失敗は失敗として,認めることは重要でしょうが,それを乗り越えるまでがセットなのです。そこをサポートすることで,失敗にめげずに,チャレンジできるこころを作っていくことができます。

 

 

 

 

ピアジェの発達段階ってなに?

発達心理学を勉強したい人には,このブログの内容は少し物足りないかもしれませんね。参考図書も紹介していこうと思います。一般の人が,発達心理学を少しずつ学んでいけるように,子育てや教育が少しでももっと楽しくなるように,子どもたちの感じている世界を少しでも一緒に味わえたらよいなと思っています。

 

今回は,「発達段階」について,有名な「ピアジェ」の発達段階説を説明します。ピアジェは,前回出てきましたね。「遺伝と環境の相互作用が大事である!」と言っていた人ですね。ピアジェの考えについて,少し補足をします。彼は,子どもは,積極的に世界に関わろうとしている「科学者」だと考えました。

 

例えば,(特に幼ない)子どもは,何回も同じことをすることがありますよね。ものを何回も落としたり,ティッシュやハンカチを何回も上に投げたり。大人には,無意味なことを繰り返しているように見えますが,これは,「○○をしたら,こうなるんだ!」という,実験を繰り返して,世界のルールを学習しているのです。なんと,子どもたちは,物理学者なのです。

 

さて,ピアジェの発達段階について説明します。彼は,子どもの認知(覚えたり,考えたりする能力)発達を4段階に分けました。①感覚運動期(0~2歳ごろ),②前操作期(2~7歳ごろ),③具体的操作期(7~11歳ごろ),④形式操作期(11, 12歳~)です。注意してほしいのは,ピアジェは,「ピアジェ語」をよく使います。例えば,「操作」とは,「頭の中で思い浮かべたものを変化させること」です。

 

まず,感覚運動期(乳児期)です。ピアジェは,この段階をさらに,6段階に分けていますが,ここでは,割愛します。感覚運動期では,身体的な活動を通して,世界を認識していきます。手で触ったり,口に入れたりして,体を使って考えています。まだ,ピアジェ語の「操作」はできません。また,この時期に,「対象(もの)の永続性」を獲得します。例えば,ダイエットするために,おまんじゅうをハンカチで隠しても,私たちは,おまんじゅうが消えることがないことを知っています。このように,ものを隠しても,ものは,そこに存在し続けることを,「対象の永続性」といいます。

 

次に,前操作期(幼児期)です。この時期の子どもは,象徴機能(ものを別のもので考えることができる能力)を獲得しています。例えば,本物の電話の代わりにバナナでまねをすることなどです。ん?もう,時代は,スマートフォンですよね。バナナ使うんでしょうか?気になりますね。ごっこ遊びやふり遊びができるようになります。また,この時期には,3つの特徴がよく言われます。①自己中心性(ピアジェ語),②中心化,③アニミズムです。

 

①自己中心性とは,「じこちゅー」でわがままであるというわけではなく,自分以外の視点を考えることが難しいという意味です。例えば,お父さんと子どもが,反対側からコップを見ているとすると,子ども側に取っ手が見えていても,お父さん側にも,自分と同じように取っ手が見えていると思ってしまうのです。

 

②中心化は,ある特徴に引っ張られて,別の特徴を考えられないことです。例えば,10個のおはじきを一列に並べるときに,ひとつひとつを離して置いたものと,間隔を短くしたものを2つ並べて,どちらのおはじきが多いですか?と聞かれたら,数は変わらないことを私たちは知っています。しかし,これが,この時期の子どもには難しいのです。見た目の長さに引っ張られてしまい,間隔が長い方が,おはじきが多いと答えてしまいます。

 

アニミズムとは,生き物だけでなく,ものにも命が宿っていると思うことです。もしかしたら,宗教に関しては,生まれ持ったものなのかもしれません。神様は,一人であるという,西洋は,一神教(神様は一人)文化であると言われますが,ギリシャ神話は多神教です。日本も多神教の宗教観を持っていますね。宗教の起源は,アニミズムなのかもしれません。すいません,脱線しました。

 

次に,具体的操作期(児童期,低・中学年)です。出ましたね,ピアジェ語「操作」。この時期は,子どもは,目の前にあるものならば,頭の中で,動かしたり,考えたりすることができるようになります。さらに,手や足を使うだけでなく,紙と鉛筆を使って,足し算・引き算などの計算ができるようになります。年齢に注目してください。7歳~ってことは,小学生になってからの時期です。しかし,この段階では,抽象的な物事(目の前にないもの)を考えることは難しいのです。9歳の壁(9歳前後で勉強につまづくこと)という現象もあります。学校の勉強についていけないことは,子どもの努力が足りないのではなく,まだ発達途中であるからなのです。これは,とても大切なことです。宿題をしない・勉強をしないのは,本当にわからないのかもしれないのです。

 

最後は,形式的操作期(児童期,高学年)です。また,ピアジェ語出ましたね。「形式的」とは,抽象的で,具体的でないもの(文字や概念など)です。例えば,中学校から,数式に「x」や「y」が入ってきますね,そして,「代入」するという,日常生活では,あまり使わないことを学習します。小学校高学年でも,「み・は・じ」あるいは,「き・は・じ」の関係を使って,道のり,速さ,時間の関係を学習します。このように,具体的から,抽象的の段階に発達しますし,ある程度は,学校のカリキュラムもそのようになっています。しかし,発達には,個人差がありますよね。中学校受験や小学校受験を考えてみてください。お分かりですね。

 

発達段階の考えは,非常にわかりやすいですが,こんなにきれいにわけられないだろうという批判もあります。また,ピアジェの理論は,間違っていることが多くの研究で言われています。せっかく勉強したのに,なんやねん!と,思うかもしれません。だいたいの考えは,合っているかもしれませんが,細かく考えると,所どころ,修正する必要があります。ピアジェ以降の発達心理学は,ピアジェの理論の批判・修正によって発展してきました。ピアジェは観察を中心に,研究をしました。そのため,おおまかな発達を知る上では,有用ですが,実験による研究では,もっと早い年齢で,できることがたくさんあることがわかっています。

 

参考図書

一般向け

渡辺弥生『まんがでわかる 発達心理学講談社

 

学習者向け

森口佑介『おさなごころを科学する』新曜社

 


 

 


 

 

ピアジェってだれ?遺伝と環境ってなに?

ブログを書くことを趣味にすれば,息抜きにもなるし,自分の勉強にもなるし,文章を書く練習にもなるし,伝える練習にもなるし,研究のことを知ってもらえるから,一日1時間ぐらいなら,趣味に時間を使っても良いのかなあと思っています。家にいるときは,寝るかお笑いを見ていますが。

 

M1グランプリ(日本で有名な漫才の大会)で,「漫才の歴史は,彼以前,彼以後に分かれる」と紹介される,松本人志や,哲学者ソクラテスのように,発達心理学にも,革命を起こした研究者がいます。それが,スイス生まれの発達心理学者「ピアジェ」です。

 

ピアジェ以前は,「遺伝(生まれ持った能力)と環境(生まれてからの経験)のどちらかが大事なんだ!」という,どっちかが大事だという議論が中心でした。そこに,ピアジェが,「遺伝と環境はどちらも大事で,その相互作用(2つがお互いに影響しあうこと)が大事なんだ!」という,どちらも大事だという考えを強調しました。

 

例えば,私たち日本人は,生まれた時から日本語に特化して生まれてくるわけではありません。実は,赤ちゃんは,英語の「L」と「R」を聞き分けることができます。びっくりですね。わたしは,聞き分けられません。つまり,赤ちゃんは,どの言語にも適応できるように生まれてくるのです。お父さん・お母さんとの関わりのなかで,日本語に特化して発達していき,英語には鈍くなっていきます。これは,「言語」を獲得する能力は,遺伝で生まれ持った能力ですが,日本の文化の中で育つという,環境で生まれてからの経験で,日本語話者になるという,まさに,相互作用が大事なことを表しています。

 

ここで,注意したいのが,発達心理学や心理学が言っている,「遺伝」とは,必ずしも親から受け継いだ能力のことだけを意味していないということです。上でも書きましたが,遺伝は,生まれ持った能力を言います。すこし違和感がある人もいるかもしれません。

 

私たちの日常会話に照らし合わせると,遺伝は「才能」で,「環境」は「教育」という言葉がしっくりきますね。そう言われたら,両方大事だと思うでしょう。さて,才能と教育に関して一つおもしろい事例があります。赤ちゃんは「絶対音感(音を聞いただけで,その音階がわかる)」を持っていると言われています。絶対音感は,音楽に選ばれし者だけの能力(ワンピースでいう,覇王色の覇気みたいな)ではなく,その素質を,ヒトは生まれながらに持っているようです。しかし,生きる上では,必要がないので(言語の方が大事ですから),失わてしまいます。しかし,音楽のトレーニングによっては,絶対音感を維持する(見た目には,獲得する)ことができるようです。私は,今は,音痴ですが,子どものときは歌を誉められました(関係ないですね)。

 

だからといって,小さい時から,たくさん習い事をすれば良いというわけではありません。遺伝と環境の相互作用を強調していることを覚えておいてください。次回は,「発達段階」を紹介しようと思います。なぜ,幼稚園・保育園,小学校,中学校,高校,大学でわかれているのでしょうか。普通の小学生が,いきなり,高校生の授業を受けたらどうなるでしょうか?早ければ良いというわけではありませんよね。

 

おすすめの本は,

『おさなごころを科学する』森口佑介

です。

 

 

発達心理学・発達科学ってなに?

子どもの発達研究を少しでも,一般の方に知ってもらえるようにブログを書くことにしました。特に,子育てをしている親御さんや学校の先生,子どもの発達を勉強したい学生に向けて書いていこうと思います。できるだけ,難しい言葉は使わないように心がけます。

 

まず,「発達心理学」と「発達科学」について,説明します。

発達心理学ってなにを勉強している分野なのでしょうか。

 

わたしたちは,生まれてから,死ぬまでにいろんな変化をしていきます。だらんとしていた赤ちゃんが,いつのまにか,言葉を話すようになります。おもちゃの取り合いをしていた幼児が,おもちゃを譲ることができるようになります。でも,また財産をめぐってけんかになることもありますが。「発達心理学」とは,"ヒトが生まれてから(あるいは,お母さんのお腹の中にいるときから),死ぬまでの,心や行動の変化を探求する学問"です。特に,年齢から,その変化を考えることが多いです。

 

例えば,言語の発達を考えると,1か月くらいから,「あーうー」などの喃語(なんご)が見られ,8か月くらいには,母語の音に似た,なにかを伝えたそうな声を出します。これは,ジャルゴンと言います。そして,10~12か月くらいに,「ママ」「パパ」などの初語が出てきます。これは,「ママ」という単語ひとつの言葉なので,一語文と呼ばれます。その後,2歳ごろになると,語彙爆発と言って,語彙(ごい,知ってる単語のこと)の数が一気に多くなります。

 

このように,だいたい,子どもはいつから,○○ができるようになる。という研究が発達心理学のテーマになります。子どもを育てたことのある方なら,うちの子は,こんなきれいにいかなかったわ。と思う方もいると思います。その通りで,発達には,個人差があります。例えば,言語に関しては,女の子の方が発達が早いとも言われます。あくまで,多くの子どもたちの平均であることを忘れてはいけません。

(追記 2024/1/23) ○○がどう変化していくか、という生涯を通した発達的変化も重要なテーマです。例えば、なぜワーキングメモリや注意などの認知能力が乳幼児期から上昇し、青年期・成人期初期にピークを迎え、高齢期にかけて下降していくのでしょうか。認知機能は、逆U字の発達的軌跡を描くことが多いです。熟達と未熟という軸だけでなく、どうしてこの発達段階で、このような認知能力の水準であるのかを考えることも重要です。そのヒントが進化発達心理学の考え方です。

 

「発達科学」は,最近よく聞く言葉ですが,発達心理学脳科学が組み合わさったようなものです。例えば,言語が発達するのと同じように,脳はどのように変化するのかを考えます。実は,大人よりも,子どもの方が,脳の神経の数が多いことがわかっています。子どものときに,使う可能性のありそうな神経のつながりをたくさん作って,その後,使わないものが無くなっていくのです。これを,「シナプス(神経と神経がつながるところ)の刈りこみ」や「脳の可塑性(変化する可能性があること)」といいます。

(追記2024/1/23) 最近の研究だと、脳科学だけでなく、腸内細菌や内受容感覚 (内臓感覚などの身体内部の感覚) といった神経指標を含む生理指標を計測する生理・生物学的側面が組み合わさっていると考えた方が良いです。発達を、行動 (発達心理学) と生理反応 (生理学・神経科学) から考えるといった感じですかね。

 

子どもの発達心理学は,大人が子どもをコントロールするためのものではありません。子どもたちが,どのように感じて,考えて,行動しているのかを理解するための学問です。実際の子どもの発達を解明することで,その知識を教育や子育てに応用することができます。しかし,これらの知識は,慎重に扱わなくてはいけません。テレビや本・雑誌を見ていると,間違ったやり方がおすすめされていることがあります。結果的に,子どもたちが悲しい思いをしてしまいます。

 

子どもたちは,未来であり,希望です。研究の成果が,子どもたち,子どもたちの周りの大人のためになるように,研究をしていきたいものです。

 

初学者向けの発達心理学入門書としては,

『問いからはじめる発達心理学坂上・山口・林

が,言葉がやさしいし,内容もしっかりしていておすすめです。

 

発達心理学を勉強している大学生や,卒論のテーマを探している方には,

『他者とかかわる心の発達心理学:子どもの社会性はどのように育つか』清水・林

が,日本でバリバリ研究をしている発達の先生方の研究や研究に至った経緯などが書いてあり,とても参考になります。