大学院ってなにをするところなの?研究ってなにをしているの?

2月になりましたね。1月は,あっという間に過ぎてしまいました。このブログは,発達科学の知見を知ってもらうことだけでなく,研究者,特に大学院生の生活を知ってもらうことも目的にしています。基本的には,大学院生は,大学院の研究室に所属して,研究指導者の指導を受けながら研究をしています。ただし,分野や指導研究者によってやり方は異なります。ちなみに,大学では,〇〇学部と言いますが,大学院では,〇〇学研究科などと言います。自己紹介するときは,「◇◇大学大学院〇〇学研究科M(修士)1の(名前)です。」とよく言います。修士課程のことをM(マスター),博士課程のことをD(ドクター)と言います。

 

大学院生がやっている「研究」ってなんでしょうか。大学を卒業したことがある方は,卒業論文を書いたと思います。卒業論文とは,大学の卒業のために書く研究論文のことで,ほとんどの大学では,この論文が審査されて,合格にならないと卒業できません。だいたいは,大学3年の9月ごろから研究を始めて,大学4年の1月ごろに提出します。そのため,多くの大学4年生は,就活をしながら,卒業論文を書いています。おそらく,卒業研究は,「学術的な方法で,研究をやってみて,論文を書いてみる」が最低目標です。「やってみる」で良いのです(最低限ですし,あくまで一般的にです)。

 

修士課程以上の大学院での研究は,「研究者として,学術的な方法で,研究できて,論文を書ける」が目的です。「やってみる」だけではだめで,「正しい方法でできる」ようになるために,プロの研究者(指導研究者,指導教員)から直接指導を受けるのです。ですので,研究指導は,師匠と弟子関係のような感じです。修士課程2年以上,博士課程3年以上かけて,研究指導を受けます。修士課程では,2年目に修士論文を提出し,博士課程では,博士論文を提出します。前になるほどおもしろいなあと思った例がありました。野球に例えて,卒業論文は,「バッターボックスに立つ」,修士論文は,「バットを振る」,博士論文は,「ヒットで塁に出る」ことが必要であると書いてありました。私はまだ,卒業論文しか書いたことがありませんが,自分で確認してみようと思います。

 

さて,脱線してしまいました。研究とは,「〇〇ってなぜ起こるのだろう?」とか,「△△ってどうなってるんだろう?」という,疑問(これを,リサーチ・クエスチョンと言います)を,科学的な方法で解明することです。しかし,このような大きな疑問を解明できたら,苦労しないです。「戦争はなぜ起きるのだろうか?」が解明できて,解決策がわかれば,もっと世界は平和になっています。「子どもが良い子に育つにはどうすれば良いか?」が解明できていれば,こんなにたくさんの育児本は出ていません。そして,「良い子」ってどう意味ですか?何歳の子どものことですか?どこの文化や国の子どものことですか?研究は,そんなに簡単なものではありません。

 

勉強するだけなら,上でも良いのですが,研究するためには,研究の内容を狭めていかなくてはいけません。教科書を読むだけではなく,自分で実際にやるのですから,一度にたくさんのことはできません。教科書の一文や一章は,たくさんの研究と研究者の努力によってできています。上の例だと,「良い子」は難しいですね。ただ,例えば,「ルールを守れる」,「他者の考えていることを推測できる」,「他者に共感できる」,「前の3つをもとに,他者が望む行動ができる」などに読み替えることができそうです。そうなると,「ルール理解」や「心の理論」,「共感」,「向社会的行動」などがキーワードになってきます。やっと具体的に何かができる段階になります。自分の経験から自分の考えを言い合うだけなら,誰だってできます。これは,科学ではありません。

 

次に,これらのキーワードに関する研究について調べます。もしかしたら,あなたの疑問は,もう解決されている可能性もあります。いろいろ調べてみて,自分の疑問が解決しないのであれば,自分でやるしかありません。「よし!やったるで!」となります。では,なぜその疑問は解決しないのでしょうか?他の研究では,何が足りないのでしょうか?いきなり新しい方法でやるのは,うまく行かない可能性が大きいです。まずは,今までにやられてきた方法をベースにして,少し改良したり,工夫したりすることから始めるのが良いでしょう。

 

このようにたくさん,関係する研究を調べていると,良い子っていうのは,〇〇な子であるとすると,良い子になるためには,△△が必要である。しかし,これは,文化によって異なるかもしれなくて,日本では,△△が必要だけど,アメリカでは,△△は必要ない。という,予想ができるようになります。これが,「仮説」です。そして,この仮説を調査や実験によって確認してみるのです。

 

最初に疑問に思ったことから,実際に研究することは少し変わってしまうかもしれません。それは,研究には限界があるからです。人間の理解のためには,全人類を調べれば良いでしょうが,そんなことはできませんよね。一度の研究の中に,盛沢山のことを入れてしまうと,何を調べたのかがわからなくなります。時間の制限もあります(研究だけしているわけではありませんし)。一つの疑問に対して,いろいろな研究(実験や調査)をするというのが,研究者や大学院生がやっていることです。しかし,最初の疑問はとても重要なものです。私も,「生きるとはどういうことか?」「人間とは何か?」が軸にあります。

 

私の修士1年目の今は,上で書いた,1つの研究の疑問やテーマを決めて,キーワードを調べて,仮説を立てるところまで来ました。「キーワードを調べて仮説を立てる」がとても時間がかかりました。そして,どんどん新しい研究が出てくるので,終わりがありません。今は,その計画で実験をしても良いかの許可をもらう段階です。これは,倫理審査といって,ヒトに関わる研究は,その研究の意義(やるメリットがあるか)と研究の方法(実験方法,実験前後の対応など)は適切で,実験参加者に害はないかをチェックされて,許可をもらわないといけないルールがあります。ここで,許可されれば,実験をスタートすることができます。これらのプロセスが,「研究者として学術的な方法で」のトレーニングです。これを繰り返していくのでしょう。

 

今回は,ここまでにします。私の経験から書いたものですので,科学的な文章ではないですし,違う意見の方々もいると思います。ただ,大学院生は社会に出ようとせず,大学の延長で,遊んでいるわけではないことを知ってほしいです。研究以外にも,たくさん仕事があります。しばしば,遊んでいるように思われていて,攻撃されます。これは,大学院生は全人口に対して少数ですから,何をしているかがよくわからないからであると思います。同年代に比べると,異なった生活をしていますが,一生懸命生きています。それを知ってもらうことも大切な仕事だと思っています。