研究計画書について

 先日,私が卒業した大学の3年生から,大学院へ進学したいからお話をしたいという連絡がありました。このようにブログを書いているのは,大学院入試や大学院生活に関して,何も情報がないなかで勉強をがんばっている方を少しでも応援したいと思ったからです。私自身も,当時わからなかったことばかりでしたし,失敗もありました。科学は人から人へと,引き継がれていくものです。上の世代が苦労したことを,次の世代が同じように苦労する必要はありません。積み上げられた情報や知識の上に新しいものを積み上げていくのです。私がわからなくて,困って,あきらめたことを同じように,今の方が繰り返す必要はないですし,余計に苦労しなくてもいいと思っています。少しでも,私の記事が,誰かの参考になれば幸いです。

 

【研究計画書】

 研究計画書は,大学院に進学してからの研究計画,つまり修論の計画を書きます。しかし,ほとんどの人が,大学院に進学してから,提出した研究計画書とは違う研究を行っています。私は,「子どもの知らないふりの発達」として研究計画書を提出しましたが,現在は,「幼児の視覚的意識の発達」というテーマで研究をしています。

 研究計画書は,あなたが何について興味があるかを示すものというよりは,「研究遂行能力」を測るものです。つまり,あるテーマに対して,①先行研究を調べ,②問題を見つけ,③仮説を立て,④研究方法を考える,までの流れができるかを試されています。それに加えて,どうしてこの研究室に進学を希望しているかを,研究計画と関連付けて説明する必要があります。ただ実際のところ,すごく特別なテーマではない限り,たいていの研究室に行っても研究ができるわけですが,「ここでしかこの研究はできないんだ!」という思考モードで書きましょう。よくあることですから,

 研究計画書の評価に関して,どの程度のクオリティーが必要でしょうか。まず,問題と目的の流れが論理的であることが大切です。指定の文字数に従って,そのテーマの概要・定義,先行研究の流れ,問題点 (まだわかっていないこと,先行研究同士の矛盾など),本研究で明らかにすること (目的),仮説の順でたいていは書くと思います。自分や誰かに読んでもらいながら,スムーズに読めるようになるまで推敲しましょう。

 次に方法です。問題と目的の中で,自分が設定した仮説を検討することができる方法を考えます。特に実験心理学方面を考えている方は,「要因計画法 (実験計画法)」を意識することが大切です。要因計画法とは,仮説検証研究の際に,従属変数と独立変数 (要因) を設定し,独立変数を操作することで,従属変数を比較するものです。例えば,学業成績と教授法の関係を検討することを目的とします。教授法Aよりも教授法Bのときに,学業成績は高い,を仮説とします。方法は,テスト成績 (従属変数) と教授法 (独立変数) を設定した際に,教授法Aの学業成績と教授法Bの学業成績を比較することになります。さらに,この実験では,同じ人が同じテストを受けることができませんよね。そのため,教授法Aと教授法Bは,それぞれ別の参加者が受けることになります。このように,参加者が異なる要因を,「参加者間要因」,朝と夜の体温など,個人差が大きく,同じ人が含まれる要因を,「参加者内要因」といいます。上記の教授法と学業成績は,一要因参加者間計画となります。例えば,ここに朝ご飯の影響みたいのを入れるとします。2 (朝ご飯:食べた・食べない) × 2 (教授法:A・B) の二要因参加者間計画となります。要因の操作をきちっとして,パラメトリックだったらANOVAでぽんっ,ノンパラだったらχ二乗でぽんっ,が一番シンプルでしょうか。

 研究計画書は,どこまで厳密に書くべきでしょうか。もちろん完璧で,すぐでも研究を始められるものが良いとは思います。でもだったら,今その大学でその研究をやってしまえばいいと思います。未知の要素はあってもしょうがないと思います。特に,分野を変える際には,なおさらです。勉強をしながら,その研究室の手法を取り入れたいというのも,柔軟性のアピールになるのではないでしょうか。中途半端な知ったかぶりはばれるので,正直に今はまだわからないが,今後取り入れたいと書いてもいいと思います。

 研究計画書を一から書くだけでも大変ですよね。卒論や院試の勉強をしながらですから。ギリギリで提出することになるかもしれないし,不本意なものを提出することになるかもしれません。締め切りまでに書けたら〇,論理的であれば◎,先行研究と要因計画がしっかりしていれば三重〇だと思います。出せたら〇です。研究計画書が書けなくて出願を諦める人も多いですから。研究計画書をちゃんと書いて,願書を出願できたこと自体が,相当な仕事で,よくがんばっていますよね。

 研究計画書は,必ずだれかに読んでもらいましょう。添削してもらえたら,なおよしです。私は,一度,学部の指導教員にチェックしてもらい,二回目もメールで送りましたが,出願には間に合いませんでした。先生方も忙しいです。一週間くらい余裕をもって添削をお願いしましょう。先生が見てくれない場合は,大学の同期や会社の同僚などでも良いので,論理的か,矛盾はないか,文章がおかしくないかをチェックしてもらいましょう。誰もがみな,協力的かどうかは保証できません。すごく面倒見が良い人もいれば,なんにもしてくれない人もいます。希望の研究室の先生や大学院生が添削をしてくれるかもしれません。私も昨年は,後輩二人の研究計画書を添削しました。確か,二回ずつ赤入れをしたと思います。どんどんよくなることがわかります。赤入れされるのは,正直へこむかもしれませんが,フィードバックされて,それを修正することで,格段に研究計画書は良くなります。文章を書くことに慣れていないなら,最低二回は,誰かにチェックしてもらいましょう。

 発達心理学に関する研究計画書なら,私も見ます。もし,見てくれる人がいなくて困っている場合は,ご連絡ください。私も少し忙しいので,すぐに返すことはできませんが,何かコメントをできたらと思います。

 私が当時参考にした文献です。

後藤宗理・大野木裕明・中澤潤 (2000). 心理学マニュアル 要因計画法. 北大路書房

清水由紀・林創 (2012). 他者とかかわる心の発達心理学. 金子書房.

坂本真士・大平英樹 (2013). 心理学論文道場ー基礎から始める英語論文執筆. 世界思想社

都筑学 (2006). 心理学論文の書き方ーおいしい論文のレシピ. 有斐閣

 

暑さとプレッシャーで,疲れやすくなっているかもしれません。

私も睡眠のリズムが崩れたり,締め切りやタスクに追われたりで,

ツイッターに逃げていることがあります。。。orz

どうか,心と体に気を付けて,勉強・研究がんばりましょう。

 

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