博論提出までの道②

今日は、博士論文の第3章になる研究論文のイントロを修正しました。なぜこのテーマの研究をする必要があるのか、それに加えて、なぜ子どもを対象とするのか、をうまく研究の導入として説明する必要があります。また、専門誌向けなのか、一般誌向けなのかによって、イントロの書き方がかわります。私が今までに投稿している論文は、意識研究の専門誌なので、意識の研究の意義の説明よりも、発達研究の意義の説明が重要です。逆に、発達研究の専門誌の場合では、意識研究ってそもそも何がテーマとなるのかから説明する必要があります。一般誌も最初にいくつか投稿しましたが、その場合は、もっと広く意識研究の意義とそれと発達研究を組み合わせる意義、他の研究分野への貢献が重要となってきます。主に、イントロと考察は、雑誌や読者に合わせて書き方を変えるので、論文を書く前から雑誌の目星をつけておくことは重要です。私のキャリアとしても、認知科学実験心理学発達心理学での就職を考えると、実験系と発達系の両方の業績があると良いので、3本目の研究論文は発達分野を狙っています。意識の発達は、発達研究者よりも意識研究者からの興味をひきやすいのですが、発達分野への貢献も目標に頑張りたいです。

私の研究では、主に、意識の、意識内容の、知覚的意識の、視覚的意識を扱っています。歴史的には、心理物理学の研究の流れです。そこに発達の要素を組み合わせているという感じです。単純に考えると、心理物理関数は、子どもと大人で違うのか、違うならどのように発達するのか、なぜ発達するのか、どんな機能があるのか、という研究になります。しかしながら、そういった研究は特に1970-1990年代でも結構あります。情報理論が流行ったときに、認知発達研究者は、情報処理の発達研究をいろいろとやってくれています。逆に言うと、そこでやり尽くされたと思われて、研究が更新されていないという見方もできます。私の研究は、最近流行りの意識研究をしていますが、止まった歯車をまた回し始めているのかもしれません。研究はその時代のトレンドをかなり反映しています。そういう見方で先行研究を読んでみるとおもしろいですね。

私が自分の研究に用いる主な理論には、グルーバルニューラルワークスペース理論があります。フランスの神経科学者のDehaene博士らが提唱している意識の理論です。ザックリいうと、意識にのぼる、専門的にはアクセスする、には、情報が黒板のようなグローバルワークスペースに共有される必要があるというものです。このグローバルワークスペースは、ワーキングメモリとほぼ同義で使われています。そして、このグローバルワークスペースにアクセスするというのが、脳の中では、グローバルイグニッションといって、脳全体に情報伝達している状態になるということです。脳全体といっても、前頭-登頂ネットワークを経て、前頭葉に情報伝達することが重要だったりします。もともと、認知心理学者のBaars博士が、グローバルワークスペース理論を提唱し、それが神経科学ととても相性が良かったことで、グローバルワークスペース理論と神経科学的が組み合わさったものです。Baars博士の説明では、劇場をイメージしていて、グローバルワークスペースはいわば、劇場で、スポットライトが当たっているステージの上を意味しています。そのステージ上で起こっていることが意識されているということですね。

(ここからは、ただの妄想です) とすると、観客席は、神経ネットワークかもしれません。後部席の人たちがステージを認識して、劇場全体が一つになったとき、グローバルイグニッションが起きて、メタ的な意識になるのでしょうか。これがどんどん入れ子になっているかもしれない。そうなると、脳の小人の話になってしまいそうですね。

夜は、研究室で、修論生とポスドクと3人で、修論生の研究の話をして盛り上がっていました。ああでもない、こうでもない、完全に脱線しちゃった、とか、もう飲みに行こうよ、とか、そんな時間はとても楽しいなと思います。

今日読んでいたオープンアクセスの論文を少し紹介します。

オープンアクセスとは、誰でも見れるということです。

誰でも見れない論文もけっこうあります (研究機関が契約していたら見れるor有料)。

 

グローバルニューロナルワークスペース理論

Mashour, G. A., Roelfsema, P., Changeux, J.-P., & Dehaene, S. (2020). Conscious Processing and the Global Neuronal Workspace Hypothesis. Neuron, 105(5), 776–798. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2020.01.026

Dehaene, S., & Changeux, J.-P. (2011). Experimental and theoretical approaches to conscious processing. Neuron, 70(2), 200–227. https://doi.org/10.1016/j.neuron.2011.03.018