子どもはいつから嘘をつくの?嘘をつけるってどういうこと?

2019年最後の記事として,私にとって,最初の研究となった「子どもの嘘の発達」について書きたいと思います。私の研究に関しては,論文として出せていないので,詳しくは書きませんが,論文になればお知らせします。「子どもがどうしたら嘘をつかなくなるか」には,多くの人が興味を持っているのですが,「子どもが嘘をつけるようになるとはどういうことか」を考えることはあまりないようです。

 

大人は日常的に嘘をついたり,ごまかしたりするのに,子どもが同じことをすると怒るのは不公平じゃないのかなあとずっと思っていました。また,子どもが勘違いやうっかりやってしまったことを大人がこの子は悪いことをしたと上から決めつけてしまうこともあります。大人も悪気はないし,そのことに気づかない。そういう悲しい関係がなくなってほしいです。子どもと大人の感じている世界や考えていることの違いがわかることで,少しでもそういった誤解が生まれないような関係を築けたら良いですね。

 

まず,嘘とはなんでしょうか?日常的には,広い意味で「言ったことが,事実とは違う」時に,うそをついたと言います。発達心理学では,「①言ったことが真実ではない。②話し手はそのこと(①)を知っている。③話し手はそのこと(①)を意図的に(わざと)聞き手に信じさせようとしている」の3つがそろって「嘘」であるとされています。そのため,①③だけなら,勘違いだし,①②だけなら,冗談や皮肉です。

 

 

ここで大切なのは,「相手が知らないとわかっていること」「相手に間違ったことを信じさせられること」つまり,相手の心理状態の推測と(信じさせるために)自分の行動をコントロールすることが必要です。これらは,今までに書いてきた,「心の理論」と「実行機能」に対応します。つまり,嘘をつくことができるいうことは,しっかりとこれらの能力が発達していることの証であるのです。

 

それでは,子どもと大人の嘘の理解はどのように異なるのでしょうか。ここで,またピアジェ先生の研究です。次の2つの発言のどちらがより悪いでしょうか?①「牛みたいに大きな犬を見たよ(本当はそんなに大きくなかった)!」と②「先生が良い点をくれたよ(本当はテストは返されてない)!」。この2つを子どもに尋ねると,7歳くらいまでの子どもは,①の牛の方が悪いと答えるのです。この年齢前の子どもは,騙そうとする意図よりも,発言が現実からどれだけ離れているかで,悪い嘘を判断しているのです。最近の研究でも,小学校低学年の児童は,嘘の意図を考慮しないこと,大人と嘘の概念が異なることが報告されています。このように,私たち大人が,嘘だと思っていても,子どもは嘘をついたと思っていないことや,大人が思う以上に悪いと思っていないことがあり得るのです。嘘を怒る際には,これらの点を考慮してあげてください。

 

子どもはいつから嘘をつき始めるのでしょうか。子どもの嘘には,3段階あると言われています。1つ目は,3歳ごろから見られる「罰をさけるための否認」です。これは,チョコを食べちゃだめと言われていたのに食べてしまった子どもに,「チョコ食べた?」と訊くと,怒られたくなくて「食べてない」と答えてしまうことです。怒られるのをさけるためにとっさについてしまう嘘です。しかし,この段階では騙そうと思っているわけではなく,欺く意図はありません。

 

2つ目は,4歳ごろから見られる「意図的な嘘」です。これは,相手を選んで,意図的に(わざと)嘘をつくことです。例えば,アンパンマンには,本当のことを言って,バイキンマンには,嘘をつくことができるなど,嘘をつくべき相手にだけ嘘をつくことができます。

 

3つ目は,7歳ごろから見られる「一貫性のある嘘,向社会的な嘘」です。これは,一回目についた嘘のつじつまを合わせてその後の会話を続けること(嘘を付き通す)ことや相手や他者を気遣った嘘をつくことです。他者のための嘘を英語では「ホワイトライ(白い嘘)」と言います。

 

このように,子どもの嘘は発達していきます。大人は,「わざとかどうか」を怒りますが,「わざと」という概念もわかっていなかったり,嘘だと思っていないかもしれません。嘘を怒る際には,「どうして,○○と言ったの?」と一言やさしく訊いてみることも大切です。

 

さて,子どもの嘘にはどのように対応したらよいのでしょうか。子どもの嘘研究をしているLeeによる面白い研究があります。次の4つの昔話のうち,子どもが正直になるのはどれでしょうか。①オオカミ少年,②ピノキオ,③ワシントンと桜の木,④ウサギとカメ。③ワシントンと桜の木は,ワシントンが,父親の大切にしていた桜の木を斧で切ってしまったことを正直に言うと,正直さを誉められたというお話です。

 

 

答えは,③ワシントンと桜の木です。①オオカミ少年と②ピノキオは,④ウサギとカメと同じ結果でしたが,③は④よりも多く,嘘を正直に話しました。この結果は,「正直さを褒めること」は「嘘を罰すること」よりも効果があることを示唆しています。つまり,嘘を厳しく怒るよりも,正直に言ったことを認めてあげることが,大切であるということです。

 

日本の発達心理学者の林先生は,良い子に戻る機会を作ることが大事であると言っています。つまり,悪いことをしてしまったときに,正直に誤り反省できる雰囲気や機会を作ることです。「怒らないから正直に話して」と優しく促すことが大切です。確かに,やってしまったことは悪いことかもしれません。しかし,正直に話せたことはすばらしいことでしょうから,しっかりと褒めてあげてください。子どもは,怒られることをさけるためにさらに,嘘をつくようになります。嘘をつきたいわけではないのです。

 

上記で書いてきたように,大人が子どもに嘘をつかせてしまっていることや,子どもの勘違い(記憶違い)を嘘にしてしまうことも大いにあります。一般的には嘘は道徳的に悪いことです。しかし,嘘のない世界を想像できるでしょう?大人は嘘をつかないですか?嘘をつく(正直に言わない方が良い)場面もあるでしょう。どういう嘘は悪くて,どういう嘘は良いのかをしっかりと伝えていくことも大切です。

 

今回は,けっこうまじめに書きました。道徳性の発達も発達心理学では,重要なテーマの一つです。ちょうど一年前に,卒論を書いている際に,調べたことを今でも覚えていますし,子どもの嘘は,これからも考えていきたいテーマです。

 

日本語で読める本は,

『子どもはなぜ嘘をつくのか』ポール・エクマン

『子どものうそ,大人の皮肉』松井智子

『子どもの社会的な心の発達』林創

が,一般の方にも読みやすくておすすめです。

 

TED動画の

『子どもの嘘は見抜けるか?』Kang Lee

https://www.ted.com/talks/kang_lee_can_you_really_tell_if_a_kid_is_lying?language=ja

も,おすすめです。英語ですが,字幕があるし,子どもの嘘研究といったら,この人です。私も卒論では,彼らの論文をいくつか引用しました。

 

2020年も宜しくお願いいたします。